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2025年5月10日 ❘ 呼吸Library

呼吸と腰痛の関連性について
〜横隔膜と体幹安定性の重要性〜

腰痛と呼吸、一見無関係に思えるかもしれませんが、近年の研究では、両者は「横隔膜」という共通の要素を介して密接につながっていることがわかってきました。横隔膜は呼吸に関わるだけでなく、体幹を支える重要な筋肉でもあります。本記事では、呼吸と腰痛のつながりを解明した3つの研究をもとに、横隔膜の働きやその障害が腰痛にどう関係しているのかを考察します。

1.横隔膜の重要な役割 [Kolar et al., 2009]

Kolarらの研究では、健常者における横隔膜の呼吸運動をMRIで評価し、その上下動の大きさが呼吸と体幹安定性の両面において重要な指標となることを示しました。

研究データとポイント

  • • 安静呼吸時における横隔膜の平均移動距離は27.3mm(標準偏差±4.7mm)。
  • • 最大吸気時には32.5mm(標準偏差±6.1mm)まで下がる。
  • • 横隔膜の可動性は、呼吸と姿勢制御の両立に不可欠とされている。

MRIによる計測では、安静時呼吸で約27.3mm、最大吸気時には約32.5mmの上下動が見られます(健常者データ)。この動きのスムーズさは胸郭の柔軟性や腹腔の状態に影響され、効率的な呼吸と安定した姿勢の両立に不可欠です。

2.腰痛患者は横隔膜の動きが違う [Vostatek et al., 2013]

Vostatekらは、慢性腰痛患者と健常者の横隔膜運動を比較し、腰痛患者ではその可動性と協調性が低下していることを明らかにしました。

研究データとポイント

  • • 下肢挙上などで体幹に負荷をかけた際、健常者の横隔膜変位は平均22.6mmだったのに対し、腰痛群では16.3mmに低下。
  • • 腰痛群は吸気時の横隔膜運動のばらつき(標準偏差)が大きく、筋協調性の低下が示唆された。
  • • 呼吸リズムが不安定で、呼吸を止めるパターンも多く、横隔膜の協調性が低下していることが示唆されました。

このため、呼吸と姿勢制御の両立が困難となり、表層筋の代償的な活動が増えると考えられています。

3.呼吸のトラブルと腰痛リスクの関係 [Smith et al., 2006]

Smithらの疫学研究では、呼吸困難や尿失禁といった機能障害が、腰痛のリスクを顕著に高めることが統計的に示されました。

研究データとポイント

  • • 呼吸に困難を感じる中年女性の腰痛オッズ比は2.2(95% CI: 1.9–2.5)。
  • • 尿失禁を抱える人の腰痛オッズ比は2.5(95% CI: 2.1–2.9)。
  • • BMIや身体活動レベルよりも、呼吸・排泄機能の問題のほうが腰痛との関連が強いと報告された。

呼吸困難を訴える人は、腰痛のオッズ比が最大で2.2倍に達し、BMIや運動量よりも強い関連がありました。尿失禁のある人は腰痛リスクが約2.5倍に上昇しており、呼吸・排泄系の筋群(横隔膜・骨盤底筋)の機能障害が腰部支持性の低下に寄与している可能性があります。

総合的な考察:3つの研究から見えてくること

これら3つの研究から明らかになったのは、横隔膜という筋肉が単なる呼吸器官ではなく、体幹の安定性や姿勢制御に深く関与しているという点です。横隔膜の動きが制限されることで、腹腔内圧が適切に保たれず、体幹が不安定になりやすくなります。

さらに、呼吸機能の障害が腰痛のリスク要因として、肥満や運動不足よりも強く関係しているという疫学的なデータは、腰痛対策における呼吸の重要性を裏付けています。呼吸・排泄機能の乱れが体幹支持性に波及し、腰痛につながるメカニズムが徐々に明らかになってきました。

横隔膜、骨盤底筋群、腹横筋といったインナーユニットの協調性を高め、正しい呼吸パターンを身につけることは、腰痛予防・改善において極めて重要なアプローチであるといえるでしょう。

効果的なトレーニングアプローチ

こうした知見を踏まえると、腰痛の改善や再発予防を目指すうえでは、正しい呼吸の習得と、それを支える以下のような筋群のトレーニングが有効です。

横隔膜呼吸トレーニング

理学療法士やトレーナーの指導のもとで、呼吸のフォームを修正しながら行う。正確な呼吸パターンを習得することで、腹腔内圧を安定させる効果が高まります。

姿勢と呼吸の連動指導

呼吸と姿勢制御を同時に学ぶピラティスや体幹トレーニングプログラム。呼吸時の肋骨の動きや骨盤との協調をその場で確認できます。

但し、呼吸状態の評価やトレーニング成果が客観的に計測・可視化されているかというと、そうではありません。これまでの評価はあくまで徒手的であり、トレーニング成果は利用者の主観によって判断される場合も多いのが現状です。

Vitalizarの呼吸可視化アプリ「BREVI」は、iPad Proのカメラを使って胸とお腹の動きをミリ単位で非接触計測し、呼吸の深さ・回数・胸部と腹部のシンクロ率をグラフで表示します。セッションや施術前後の呼吸パターンの変化も一目で確認でき、指導内容の最適化やモチベーション向上にも役立ちます。

呼吸の質を見える化することは、腰痛対策における新たな一手。専門家の知見とテクノロジーを組み合わせたアプローチが、より継続的かつ効果的なサポートを可能にします。

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参考文献

  1. 1. Vostatek P, Novotná K, Rychnovský T, Véle F. Diaphragm Postural Function Analysis Using Magnetic Resonance Imaging. PLoS One. 2013 Mar 13;8(3):e56724.
  2. 2. Kolar P, Neuwirth J, Sanda J, Suchanek V, Sulc J, Kyncl M. Analysis of Diaphragm Movement during Tidal Breathing and during its Activation while Breath Holding Using MRI Synchronized with Spirometry. Physiological Research. 2009;58(3):383–392.
  3. 3. Smith MD, Russell A, Hodges PW. Disorders of Breathing and Continence Have a Stronger Association with Back Pain than Obesity and Physical Activity. Australian Journal of Physiotherapy. 2006;52(1):11–16.

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