なぜ声が出にくいとき、まず呼吸を見るのか
〜BREVIで見えてくる声と呼吸のつながり〜
声が出にくいとき、多くの方は「喉の調子が悪いのかな」「歌い方が悪いのかな」と考えます。けれども実際には、声の問題を“声の出し方”だけでは説明しきれないケースがあります。
近年では、“声の出し方”だけでなく、呼吸の動きや息の流れに注目したボイストレーニングも重要視されています。安定した声を出すためには、安定した呼気が必要と考えられているからです。
今回は、全2回にわたる連載の第1回として、一般の方からプロの歌手まで、“声を良くしたい”という多くの方々に対しBREVIを活用されている、岐阜県岐阜市の「Natural Voices」代表・西川佳甫さんにご協力いただきます。本連載では、声が出にくいときになぜ呼吸を見るのか、そして声と呼吸がどのように関係しているのかについて、一般の方にも分かりやすく解説していただきます。
今回お話いただいたのは

ボイススキルコーチ 西川 佳甫 様
(Natural Voices代表)
https://www.naturalvoices.netはじめまして、Natural Voices代表の西川佳甫と申します。私は、呼吸・姿勢・口腔機能など、身体全体の状態から声を整えるボイストレーニングを行っています。本稿では、声が出にくいときに呼吸をどう見ているのか、またBREVIをどのように活用しているのかを、実際の事例を通してお伝えしていきます。
今回お話を伺ったのは、Natural Voices代表・西川佳甫さんです。西川さんは岐阜県でボイススタジオを運営し、身体全体の状態から声を整えるボイストレーニングを行っています。今回は、声と呼吸の関係や、声が出にくいときにBREVIをどのように活用しているのかについて解説していただきます。
良い声には、歌う前の“呼吸の準備”が大切
本来、呼吸は肺で行われるもので、横隔膜の運動によって、お腹だけでなく胸や背中にも立体的な動きが生まれます。
けれども、ボイストレーニングの現場で一般の方の歌う前の呼吸を見ていると、お腹だけが動く方、お腹に対して胸が少しだけ動く方、あるいは胸だけが動く方などさまざまで、胸とお腹がどちらも立体的に動く方は多くありません。中には、発声のための「腹式呼吸が大切」という言葉から、お腹を積極的に動かそうとされている方も見られます。
私は、これまでの指導の中で、歌う前の呼吸のコンディションが重要だと感じてきました。胸やお腹のどちらか一方だけに偏った呼吸はかえって腹圧の調整を乱し、力んだ発声につながることもあります。
そこで今回は、良い声に必要な、胸とお腹が連動して動く呼吸についてお伝えしたいと思います。
|1分間の呼吸数が2回!?参考になるプロの「歌う前」の呼吸
プロの演奏者では、胸とお腹が大きく、同じタイミングで動く呼吸を見ることがあります。
以下は、プロの声楽家、テノール歌手の方の呼吸波形になります。
- 呼吸数:2回/分
- 胸部の動き:14.6mm
- 腹部の動き:18.3mm

1分間の呼吸数は2回と非常にゆっくりとしたリズムで呼吸を行っており、波形の通り胸とお腹の動くタイミングが一致しています。そして、胸部と腹部が大きく動いていることから、1回の呼吸で充分に息が吐けているのがわかります。私はこの動作を『歌のために胸と腹が自由に動ける、整った状態』と捉えています。
ただし、ここで大事なのは「プロと同じ動きにしよう」ということではありません。
一般の方が声を出しやすくするための土台として、まずは以下に示すような「胸と腹が連動して動く呼吸」になっているかを大切にしています。
【理想的とされる呼吸】
呼吸の主たる筋肉の横隔膜を適切に使用するためには、胸とお腹が連動した呼吸(下図右図)が望ましいと言われています。

最初にチェックするのは、呼吸の“動き”と呼気の長さ
私が指導で大切にしているのは、その人らしい自然な声が出ているか、ということです。そのため毎回、まず歌う前に、呼吸の動きと呼気の長さを確認します。胸とお腹が連動して動いているか、そして、息を力まずに吐き続けられるか。そこを見て、声を支える土台が整っているかを確かめます。
そのうえで、共鳴と音域も確認します。
共鳴では、声帯で生まれた音が口や喉の空間で無理なく響いているかを、音域では、その人が楽に出せる音の範囲を確認します。
胸の動きが少ない呼吸の場合は、肋骨が十分に動いていないことにより、吸える息の量が減り、息の強さやスピードを調整しにくい状態になります。そのため、大きな声を出したり、高い音を無理なく保つことが難しくなります。
また、腹部深層筋による身体の安定が得にくい状態では、それを補おうとして身体に力が入りやすくなります。この力みが顎や舌、口周りにまで及ぶと、顎の開き方や舌の位置が変わることで、声の響きや発音に影響します。
だからこそ、呼吸の状態を知り、姿勢や口の動きを見ながら声を聞くことが大切なのです。
実際、私が声を聞く際には、以下の点をチェックします。
- 喉で息を止めるような力みがないか
- 喉が狭くなっていないか
- 音の高低と息の量とスピードはバランスが取れているか
- 息が漏れるような質感になっていないか
こうした声の印象から、呼気の流れや無意識に行なわれている発声の動きとの関係を照らし合わせながら、今の声の出にくさがどこから来ているのかを整理していきます。
|呼気の長さを見るのは、気持ちの状態も知りたいから
私が毎回のトレーニングで欠かさず見ている項目のひとつに、「どれくらい長く息を吐き続けられるか」があります。
呼気の長さは、声の土台となる働きを見るうえで、とてもシンプルでありながら重要な指標だと感じています。単に「長く息を吐けるかどうか」や「呼気を一定の深さやリズムに保てるか」をみるだけでなく、「気持ちの緊張が強くなっていないか」を見る意味があります。
感情の乱れは声に現れます。苦手意識があると「うまく出さなければ」という思いが先に立ち、声を出す前から息が吐けなくなってしまうことがあります。この緊張は、ただ息を吐くだけの練習のときにも表れやすく、息を絞るように吐いたり、無理にお腹を使って吐ききろうとする動作になりがちです。
歌を楽しむためには、こうした不安な感情と発声の動作を切り離す必要があります。そして、気持ちが不安なときほど、息が吐けず、逆に吸いたくなりがちです。そんなときはまず「ただ息を吐くこと」に意識を向けてもらい、ただ長く息を吐いてもらうことで、不安そのものに思考を向かわせず、吐く動作が優位になるよう身体から少しずつ整えていきます。
自分で意識しなくても自然に呼吸が続く状態へ整えていく——その積み重ねが、歌を楽しむ心の余裕にもつながります。呼気の長さを見ることは、そうした大きな意味があります。

|実際の指導現場で感じていること
実際の指導においても、自宅で息を長く吐く練習を繰り返し行ってもらっていますが、その中で、息が吐ける秒数が少しずつ伸びてくるのと重なるように、「声が出しやすくなった」「前より楽に歌える」と話される方も少なくありません。
現時点では呼気の長さと発声変化の関係を系統的に検討したデータにはなっていませんが、現場では、呼気の安定や持続が、声の出しやすさを考えるうえで見逃せない指標のひとつだという実感があります。
声帯の振動を支えているのは、安定した途切れない呼気
声は、喉頭内にある声帯が振動して生まれます。病変のない健康な声帯であれば、呼気が続く限り振動が繰り返され、声も続きます。そのため、安定した声には安定した息が求められますし、長く息を吐き続ける力も必要になります。
定期的にトレーニングをしている方が「今日は声の調子が悪い」と感じる日には、腰や背中の硬さ、呼吸の浅さ、肩や首の力の抜けにくさを話されることがありますが、そのような日は、呼吸を測ると胸の動きが小さく、いつもより呼気の長さが短くなっていることが少なくありません。
|声の不調を、喉だけの問題にしない
こうした経験から私は、声が出にくいときに、喉だけをみるのではなく、「今、呼吸はどうなっているか」を先に確認することに意味があると考えています。
実際に、「高い声が出ない」「声がかすれる」「声がすぐ疲れる」といった訴えがあったとしても、その原因が必ずしも声帯だけにあるとは限りません。身体の緊張や呼吸の浅さから十分な呼気が作れず、結果として声が出しづらいこともあります。本人は喉の問題だと思っていても、呼吸や姿勢を整えたら声が出しやすくなった、というケースにたくさん出会ってきました。
声の不調を「喉の問題」と決めつけず、身体全体に目を向け、一つずつ整えていくことが、回復に向けた段階的なプロセスにつながると考えています。
BREVIで見えてくる、声と呼吸のつながり
いつもの声が出ないとき、歌い手は「なぜ今日は歌えないのだろう」と不安になります。
けれども、声に関わる身体のつながりは、呼吸、姿勢、口腔、感情など複雑に絡んでいて、自分のことを客観的にみるのは簡単ではありません。だからこそ私は、そんなときにはまず、歌う前の「そもそもの呼吸」をチェックします。
本来の横隔膜の呼吸ができているか。胸と腹はどう動いているか。息は安定して流れているか。そうしたことを確認することで、声が出にくい理由を整理しやすくなります。
私は呼吸可視化アプリBREVIを、その確認のために使っています。
単に数値を取るためのものではなく、呼吸を見える形にすることで、どこに課題があるのか、何が変わってきたのか、どの方向に整えていけばよいのかを、本人と共有しやすくなります。
BREVIは呼吸への“気づき・共有・継続”を生む入口になる。私はそう感じています。
次回は、実際のケースをもとに見ていきます
次回は、実際に高い声が急に出づらくなった50代女性のケースをもとに、BREVIでどんな呼吸が見えたのか、音声とあわせて何がわかったのか、呼吸ケアとトレーニングを行った結果どんな変化が見えたのかをデータを交えながら具体的にご紹介します。
編集部まとめ
今回の記事から見えてくるのは、「声」には「歌う前の呼吸の状態」が深く関わっているという点です。声が出にくいとき、多くの方は喉や発声方法に原因を求めたくなりますが、実際には呼吸の浅さや身体の緊張、姿勢などが影響しているケースも少なくありません。
また、呼吸は無意識に行われているため、自分自身では状態の変化を捉えにくく「今日はなぜ声が出にくいのか」という要因の整理が困難です。その際、発声を支える呼吸動作を客観的に知ることは、声のコンディションを理解するうえで重要な視点になります。次回は、実際に高い声が出しづらくなった方の事例をもとに、BREVIでどのような呼吸の特徴が見えたのか、そして呼吸へのアプローチによって声にどのような変化が生まれたのかをご紹介します。
このように、BREVIは呼吸を可視化することで、感覚的に捉えられていた呼吸の状態を共有しやすくし、変化や課題への気づきをサポートします。
BREVIの機能や導入方法、料金などの詳細は、公式Webサイトにまとめています。呼吸の状態を客観的に把握したいと感じている方は、ぜひ一度ご覧ください。
活用事例
呼吸可視化BREVIは、整形外科クリニック・治療院・ピラティス/ヨガスタジオなど、さまざまな現場で活用されています。ここでは、たとえば呼吸データをどのタイミングで測り、どのように説明・介入に活かしているのか、そして現場にどんな変化が生まれたのかなど、実例をもとに紹介します。「評価が伝わらない」「リピートの継続につながらない」といった課題に対して、呼吸を“見える化”することで何が変わるのか、導入前後の工夫やデータも含めて、ぜひ各事例をご覧ください。
