プロサッカー選手と呼吸【第2回】
〜サッカー選手における腹斜筋の重要性〜
スポーツ現場では、「体幹を安定させること」がパフォーマンスの向上や障害予防につながると考えられ、さまざまなトレーニングが行われています。しかし、サッカーのように方向転換やスプリントを繰り返す競技では、単に体幹を固めるだけでなく、胸郭と骨盤の位置関係を適切にコントロールすることも重要です。
そして、その役割を担う筋群の一つが「腹斜筋群」です。腹斜筋群は体幹や骨盤のコントロールに関わるだけでなく、呼吸にも関与しています。
前回の第1回では、プロサッカー選手にBREVIを用いた呼吸評価を行い、特徴的な呼気戦略がみられた症例をご紹介しました。
では、なぜサッカー選手に対して「呼吸」を評価するのでしょうか?
「呼吸」と「サッカーの競技動作」は、一見すると別のものに見えるかもしれません。しかし、「腹斜筋群」という共通点から両者を捉えていくと、サッカー選手の呼吸を評価する意味が見えてきます。
今回は全4回連載の第2回として、群馬県前橋市でPRIVATE GYM HOOPを開業し、プロサッカー選手をはじめ、さまざまなアスリートのコンディショニングにBREVIを活用されている片貝功基さんに、サッカーの方向転換動作でみられる「Upper Body First」と、スプリント動作における「Hip Lock」という2つの視点から、腹斜筋群の重要性について解説していただきます。
今回お話いただいたのは

理学療法士 片貝 功基 様
(PRIVATE GYM HOOP代表)
初めまして、PRIVATE GYM HOOP代表の片貝功基と申します。理学療法士としてプロサッカーの現場に携わった経験をもとに、現在は呼吸を起点としたコンディショニングおよびトレーニング指導を行っています。本稿では、サッカー選手における腹斜筋の重要性について考察していきます。
本記事の作成にあたっては、PRIVATE GYM HOOP代表・片貝功基さんにご執筆いただきました。片貝さんは群馬県でプライベートジムを開業されています。今回は、サッカーの競技動作と呼吸の双方に関わる「腹斜筋群」に着目し、方向転換動作でみられる「Upper Body First」と、スプリント動作における「Hip Lock」という2つの視点から、胸郭と骨盤のコントロールにおける腹斜筋群の重要性について解説していただきます。
方向転換で重要な「Upper Body First」
サッカーでは、相手やボールの状況に応じて、瞬間的に進行方向を変えることが求められます。その際、胸郭・骨盤・下肢が一つの塊となり、同時に方向を変えているわけではありません。
Sadoらは90°の方向転換動作を分析し、骨盤よりも先に胸郭が目標方向へ回旋することを報告しています。また、このとき胸郭と骨盤の間には一時的な相対回旋が生じ、腰仙部の軸回旋トルクも、その回旋を能動的に生み出す方向へ働くことが報告されています(1)。
このように、上半身が先行して進行方向へ向かう戦略を「Upper Body First」といいます。Upper Body Firstでは、胸郭を先行して動かしながら、骨盤との間に必要な相対回旋を生み出し、その動きを適切にコントロールすることが求められます。
実際に、Matsunagaらがサイドステップ動作中の筋活動を調べた研究では、内腹斜筋/腹横筋を含む筋シナジーが、接地前から立脚中期にかけて活動することが報告されています(2)。
スプリントで重要な「Hip Lock」
もう一つ、私が腹斜筋群を含めた体幹機能に注目しているのが、スプリント動作です。スプリント動作では、高速で左右の片脚支持を繰り返します。このときの骨盤制御を考えるうえで参考になるのが、Frans Boschが提唱する「Hip Lock」という考え方です(3)。
BoschはHip Lockについて、支持脚側の股関節周囲筋が十分に共同収縮することで、遊脚側の骨盤が前額面では引き上がり、水平面では前方へ回旋し、わずかに前傾する状態と説明しています。ここでいう「Lock」とは、骨盤を完全に固定するという意味ではありません。スプリントなどの動作中に、安定した基準をつくるという考え方です。
私はこのHip Lockを、単に「中殿筋で骨盤を引き上げる動作」とは考えていません。股関節周囲筋によって支持脚側の安定性をつくる一方で、その上にある体幹と骨盤の位置関係も同時にコントロールする必要があります。
つまりスプリントでは、遊脚側の骨盤を引き上げた状態を保ちながら、その上で体幹をコントロールすることが求められます。そのため私は、股関節周囲筋だけでなく、腹斜筋群を含めた体幹筋が骨盤とどのように協調して働いているのかという点にも注目しています。
呼吸とUpper Body FirstとHip Lockに共通するもの
ここまで、サッカーの方向転換とスプリントという2つの競技動作についてみてきました。
方向転換では、胸郭と骨盤の間に生じる回旋をコントロールすること。
スプリントでは、片脚支持中に骨盤と体幹の位置関係をコントロールすること。
2つは異なる動作ではありますが、どちらにも腹斜筋群を含めた体幹筋の協調した働きが重要になります。一方で、内腹斜筋や外腹斜筋、腹横筋は、競技動作のときだけ働く筋ではありません。これらの筋は、呼吸、特に呼気にも関与しています(4)。
つまり、方向転換やスプリントで重要となる体幹筋の使い方を考えるうえで、「呼吸」はまったく別の機能ではないということです。だからこそ私は、呼吸を単なる「換気機能」として捉えるのではなく、腹斜筋群を含めた体幹の使い方をみるための、一つの運動課題として評価しています。
|なぜ呼吸がハムストリングス損傷予防につながるのか?
次回は、もう一つの重要な視点である「ハムストリングス損傷予防」から、腹筋群と呼吸の関係について、さらに掘り下げていきます。
サッカー選手に多くみられるハムストリングス損傷を考えるとき、損傷した筋そのものだけでなく、腹筋群がどのように働き、身体をコントロールしているのかという視点も重要になります。
今回ご紹介したように、腹筋群は競技動作だけでなく、呼吸にも関与しています。では、呼吸からみえる腹筋群の使い方は、ハムストリングス損傷予防とどのようにつながるのでしょうか。
第3回では、この疑問を紐解きながら、ハムストリングス損傷予防という視点から、腹筋群と呼吸の関係について考えていきます。
参考文献
- 1. Sado N, Yoshioka S, Fukashiro S. Lumbar axial torque actively induces trunk axial rotation during sidestep cutting manoeuvre: Insight to expand the trunk control concept. J Biomech. 2020;111:110003. doi:10.1016/j.jbiomech.2020.110003.
- 2. Matsunaga N, Aoki K, Kaneoka K. Comparison of modular control during side cutting before and after fatigue. Appl Bionics Biomech. 2021;2021:8860207. doi:10.1155/2021/8860207.
- 3. Bosch F. Anatomy of Agility: Movement Analysis in Sport. Rotterdam: 20/10 Publishers; 2020.
- 4. Abe T, Kusuhara N, Yoshimura N, Tomita T, Easton PA. Differential respiratory activity of four abdominal muscles in humans. J Appl Physiol. 1996;80(4):1379-1389. doi:10.1152/jappl.1996.80.4.1379.
編集部まとめ
今回の記事から見えてくるのは、サッカーにおける「呼吸」と「競技動作」は、一見すると異なるものに見えても、腹斜筋群を含む体幹筋の働きという共通点から捉えられるという視点です。
方向転換でみられる「Upper Body First」や、スプリントにおける「Hip Lock」では、胸郭と骨盤の位置関係を適切にコントロールすることが求められます。そして、これらに関わる腹斜筋群は呼吸にも関与しています。
|第1回で紹介したプロサッカー選手の呼吸の介入の経過
第1回では、プロサッカー選手に対してBREVIを用いた呼吸評価と介入を行った事例をご紹介しました。その際、2026年1月1日のBREVIデータを掲載しましたが、今回はその1週間前となる12月25日のデータも併せてご紹介します。
【2025年12月25日】
- 呼吸数:8回/分
- 胸部の動き:20.1mm
- 腹部の動き:29.2mm

【2026年1月1日】
- 呼吸数:6回/分
- 胸部の動き:18.5mm
- 腹部の動き:25.3mm

両日とも、同じ姿勢・同じ測定条件のもと、呼吸介入後に選手が意図的にゆっくりと呼吸を行った際の測定結果です。前年12月25日と比較して、1月1日は呼吸数が8回/分から6回/分へと減少していました。また、胸部の動きは20.1mmから18.5mm、腹部の動きは29.2mmから25.3mmへと変化していました。
注目したいのは、呼吸数が減少した状態でも、胸部・腹部の動きが確認されていることです。今回の結果から、同選手は呼吸のペースをさらに落とした状態でも、胸部・腹部を動かしながら呼吸できていたことがわかります。ただし、これらの数値だけで横隔膜や腹筋群の機能が改善したと判断することはできません。
このように、BREVIを用いて呼吸を継続的に測定することで、呼吸数や胸部・腹部の動きの経時的な変化を客観的に把握できます。呼吸を単なる「換気機能」として捉えるだけでなく、体幹の使い方をみる一つの運動課題として評価することは、アスリートの身体機能やコンディショニングを考える新たな視点につながる可能性があります。
次回の第3回では、「ハムストリングス損傷予防」という視点から、腹筋群と呼吸の関係をさらに掘り下げていきます。ぜひ次回もご覧ください。
BREVIの機能や導入方法、料金などの詳細は、公式Webサイトにまとめています。呼吸の状態を客観的に把握したい方は、ぜひ一度ご覧ください。
活用事例
呼吸可視化BREVIは、整形外科クリニック・治療院・ピラティス/ヨガスタジオなど、さまざまな現場で活用されています。ここでは、たとえば呼吸データをどのタイミングで測り、どのように説明・介入に活かしているのか、そして現場にどんな変化が生まれたのかなど、実例をもとに紹介します。「評価が伝わらない」「リピートの継続につながらない」といった課題に対して、呼吸を“見える化”することで何が変わるのか、導入前後の工夫やデータも含めて、ぜひ各事例をご覧ください。
